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2015年9月24日 (木)

独VW、排ガス不正で特損8700億円計上 対象1100万台

欧州の製造業を代表する企業である独フォルクスワーゲン(VW)の経営が、米国での排ガス試験の不正問題で大きく揺さぶられている。米当局は最大で約2兆円の制裁金を科すことを検討しているもよう。対象車両は世界で1100万台に上る可能性があり、VWは9月22日、対策費用として65億ユーロ(約8700億円)を特別損失に計上すると発表した。トヨタ自動車と世界首位を争うVWのブランドイメージにも打撃となりそうだ。
VWによると、VWグループのディーゼルエンジン「EA189」を搭載した車両で、排ガスの試験の結果と実際の走行時の排ガス量のデータが異なるという。このエンジンを搭載した車両は全世界で1100万台が販売されている。VWは試験時のデータを正しく示すようにソフトウエアの書き換えなど技術的な対応を開始した。ドイツの運輸行政を担う独自動車局(KBA)など関連当局とも協議を始めた。欧州連合(EU)の最新の窒素酸化物(NOx)などの排ガス規制「ユーロ6」に対応した車種には不正はなかったという。VWはサービス面での対応など関連費用として2015年7~9月期に65億ユーロを計上する。巨額損失により7~9月期は最終損益が赤字に転落する公算が大きい。15年12月期通期でも、108億4700万ユーロの純利益を実現した前の期に比べ大幅な業績悪化が避けられない。(日本経済新聞:9月22日)


排ガス規制について考える。


何だか怪しい数字が飛び交っているので、各地域のディーゼル乗用車の排ガス規制値を確認するところから始める。

■ 各地域のディーゼル乗用車排ガス規制 (単位:g/km)
  新車排出ガス規制        CO    NMHC     NOx    PM
  2009年規制 (日本)        0.63    0.024     0.08    0.005
  ユーロ5 (欧州) 2008年     0.50    0.068     0.18    0.005
  Tier 2 Bin5 (米国)  2007年   0.003   制限無し   0.044    0.006

     ※  NMHC = Non - Methane hydrocarbons


今回問題になっているのはNOx規制を超えているというものである。報道によると、走行中のNOxが北米市場で定められた規制値の15~30倍以上(EPAは40倍と報告)であるとされる。大きい方の30倍とすれば、0.044g/km以下と定められているものが、1.32g/km(EPA:1.76)になったと読める。これだと排気ガス発生装置になってしまったと感じるだろう。
記事の元になっている、West Virginia University の Principal Investigator Dr. Gregory J. Thompson (トンプソン博士と呼ぶ) の論文を確認してみた。論文のタイトルは、”In-Use Emissions Testing of Light-Duty Diesel Vehicles in the United States” というものである。簡単に論文を閲覧できる環境には感謝しなければならない。しかし、閲覧可能と理解可能とには距離があるということも同時に認識することになる。
試験を行ったのは三つのモデルである。コンパクトカークラスのVW ジェッタが、排ガス浄化装置がLNT (NOx吸蔵還元型触媒) で、VW パサートと、BMW X5 がSCR (尿素SCRシステム) という情報がICCT (国際クリーン交通委員会) が発表している。
試験方法は、公道で実際に走行した車両から排出されるガスを分析する方法を採用している。排気ガスを車載型排ガス計測システムによって分析している。装置は堀場製作所製OBS-2200となっている。排気ガスを分析する装置は、本来据え置きで使うものだから、自動車に搭載して測定するというのは大変だし、公道試験では道路の混雑状況の違いもあり、データの信頼性を得るのに苦労するだろうことは容易に想像される。そんな事情もあって、トンプソン博士は100回も試験を繰り返す必要があったという。
この試験結果で、排ガスのレベルがどうかという議論はどうでも良い話である。排ガス規制の試験というのは、特定のモードに従った走行を実施した際の排ガス中の物質を規定している。つまり、走行モードが違えばNOx量が増えることが当然発生する。モード走行時の排ガスが実際の走行と違うことを問題にするのは合理的だが、その問題が向かうべきはモード構成のあり方であるべきだ。注目すべきは、郊外の安定的な走行可能な状況において、NOxの排出量が突出して増えていることである。トンプソン博士は、特定の状況が発生した場合に、排ガスを抑制する制御がなされると判断した。
排ガス規制は、走行モードを設定し、その間の平均値を出して規制するという考えなので、特定の走行時に規制値を超えるということだけで批難するのは間違いである。35倍とか40倍とかに報道は重きを置いているようだが、無意味である。ディーゼルのNOx規制値は、EURO3(2001)で 0.50、EURO4(2005)で 0.25 となっている。EURO3より高い値を出すというのは、垂れ流しより悪いと言って良いくらいだろう。数字だけで語れる事柄ではない。
ディーゼルエンジンの排ガス規制対策で難しいのは、高温で発生するNOxとPMがトレードオフの関係にあるからと説明される。燃焼温度を上げるとNOxが発生し、下げるとPMが発生するということである。PMが発生しないで、燃費も良いことが期待される高温燃焼状況で制御するとNOxが発生する。そこで、排ガスをLNTで処理するというのが、ジェッタの方法である。NOxは酸素が多い雰囲気 (リーン状態) では処理 (還元) されないので、吸蔵して処理するという方法である。SCRでは尿素切れが生じる可能性があり、装置構成が複雑でスペースと重量を取る。
ジェッタが大量のNOxを流す理由は、リーン状態にする、つまり、燃料消費が少ない状況に制御して、LNTの想定している容量を超えたからと推定される。これでも、モード走行のときに不具合がないのなら、VWの責任ではないと考えられるが、今回問題になっているのは、モード走行を認識すると別のプログラムで制御するというシステムであるからである。

日本でも、2011年にいすゞ自動車の一部トラックが、ある条件下で排ガス処理システムが働かなくなる点ことが問題になった。この結果、東京都は規制を逃れる行為を規制することを、国土交通省に求めている。問題になったのは、SCRではない小型トラックである。この手の問題は、最近発生したものではない。1980年代であったと記憶するが、エンジンの電子制御が高度に利用されることで、排ガス規制やそこで生じる燃費を見かけ上良くする技術が報告されていた。それが高度化されたのが今回のVWの件である。単純な比較として表現すれば、8bitのMPUであったものが、32bitになり、きめ細やかな制御と、広い例外処理が実現されたということである。
いすゞの問題で、当時都知事の石原慎太郎は「規制逃れのインチキ、企業の犯罪だ」と怒った。排ガス規制がすべての領域で、完全に達成されている訳では無いことを考えれば、主張は正しくとも、怒るのは、規制を作成した側に向かうべきであろうと感じる。少なくとも、PM規制を作る動きの先頭に石原はいたのだから、天に唾する行為であると思った。

そうはいってもVWが法律を逃れる行為を意図して行ったのは事実だから、いかんともし難い状況に陥っている。VWがこのような手段に出た理由としては、LNTの寿命確保が難しかったか、容量を大きくする=コストアップにつながる、といった排ガス関係の話か、実際の走行燃費を向上させて、排ガス規制に合格しようとしたかである。なぜそこまでするかをさらに踏み込むと、米国市場に魅力を感じるからである。米国市場でVWを広めるには、環境性能の優れた自動車を提供するというイメージが欲しかったのだろう。ハイブリッド車でのプリウスの成功によるトヨタの地位向上を、VWはディーゼルエンジンで達成しようと思ったと考えられる。米国市場での、VWとAudiの販売台数の推移を下に示す。

■ 米国市場でのVW、Audi販売台数推移
   年      VW       Audi
  2014    366,970    182,011
  2013    407,704    158,061
  2012    438,133    139,310
  2011    324,402    117,561
  2010    256,830    101,629
  2009    213,454     82,716
  2008    223,128     87,760
  2007    230,572     93,506
  2006    235,140     90,116
  2005    224,195     83,066
  2004    256,111     77,917
  2003    302,686     86,421
  2002    338,125     85,726
  2001    355,648     83,283
  2000    355,479     80,372
  1999    382,328     65,959
  1998    219,679     47,517

世界最大の生産台数になろうとするグループにとって米国市場は、残された大市場である。米国の2014年の乗用車新車販売台数は 7,918,601台である。800万台の市場規模に対し、大衆車のVWが40万台というのは寂しい。高級車のAudiにおいても、同じドイツの高級車であるBMWが 339,738台、Mercedesが 330,391台であれば、もっと伸ばしたいと考えるのは必然である。

VWはリコールすると言うが、どう対応するのだろうか。該当品を購入した顧客にとっては、プログラムの修正は、燃費の悪化が生じる恐れがある。そのままでも走行に問題がなく、少し排ガスが汚いくらいで済めば、なんでリコールに対応するのだろうか。もちろん、環境性能に期待して購入したという顧客は多いだろうし、リセールバリューの大幅な低下が心配されれば不満も出るだろう。ということは、VWが自社のクルマを回収するということか。これもあんまり現実的では無いように思える。不可能というほどではないだろうが、その後の影響というのが予測不能である。


■ ”In-Use Emissions Testing of Light-Duty Diesel Vehicles in the United States” のアドレス
http://www.theicct.org/sites/default/files/publications/WVU_LDDV_in-use_ICCT_Report_Final_may2014.pdf


鈴木修の嗅覚に驚くよりない。

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