元受刑者ら、企業の雇用伸び悩み 政府は補助金拡充
法務省によると、保護観察中の少年や刑務所を出所した元受刑者への「協力雇用主」として登録している企業は約1万2千社(昨年末時点)あるが、実際の雇用は472社にとどまる。協力雇用主の8割は従業員100人未満の中小企業で、建設業が約48%を占める。
政府は今年4月、元受刑者らを1人雇用すれば最大約12万円を支給してきた企業への補助金を同72万円に引き上げた。全国54の自治体は公共工事入札で協力雇用主への優遇制度を導入している。
300社以上が会員となり、元受刑者らの就労を支援するNPO法人「全国就労支援事業者機構」(東京・渋谷)の幹部は「大企業の雇用は少ない。株主や役員の理解を得るのが難しいのではないか」と指摘。会員の自動車メーカーは「具体的な支援は機構に任せている」とする。藤本哲也・常磐大教授(犯罪学)は「社会貢献の一環として雇用を広げてほしい」としている。(日本経済新聞:7月17日)
元受刑者の雇用について考える。
これまでに何度か扱っているが、懲役刑に処せられた人が社会に受け入れられないのなら、懲役刑は再犯を一定期間停止する効力しかない。刑務所が矯正をしているというのが無効であると考えるなら、刑務所の現状は最適ではないということになる。一定期間の犯罪停止があっても再犯に至るのなら、公共の福祉の観点からすべて無期懲役にするのが妥当ということになる。
全員収容できるのかと思って調べてみた。2011年末現在において、収容定員が9万547人(このうち既決の収容定員は7万2,434人)であるところ、収容率は77.2%(既決85.7%、未決43.0%)であり、収容人員が収容定員を超えている刑事施設(本所に限る)は、77庁中6庁(7.8%)であった(法務省矯正局)。刑務所はそれなりに混んでいて、懲役囚が増えるという安易な判断は答にならない。
年末の収容者数を法務省が公表しているので、男女別を含めて下に示す。
■ 年末収容人員 (法務省統計より)
計 男 女
2009年 75,250 70,038 5,212
2010年 72,975 67,632 5,343
2011年 69,876 64,531 5,345
2012年 67,008 61,726 5,282
2013年 62,971 57,912 5,059
男女は10:1と昔調べたような記憶がある。そんなに外れてはいないようだ。検索していたら、懲役になっているものの多くは帰化人だというのが出てきた。法務省は日本人と外国人の区別はするが、帰化人などという区分を使う筈もない。まことしやかに数字の羅列がある。誰が何が楽しくて作るのか。不思議な趣味である。
最初に記事の内容について確認する。公益財団法人東京都中小企業振興公社によると、協力雇用主と、その現状について下記のようになっている。
■ 再犯防止を支える協力雇用主
犯罪や非行をした人たち(刑務所出所者等)は、再び地域に帰ってきます。これらの人たちが再犯や再非行に至らないためには、仕事に就き、職場に定着して、責任ある社会生活を送ることが重要です。一方で、保護観察終了者のうち無職者の再犯率は有職者の約4倍で、刑務所再入所者の約7割は再犯時に無職です。刑務所出所者等への就労支援を効果的に実施し、再犯や再非行を防止するためには、協力雇用主の方々の存在が不可欠です。
■ 協力雇用主の現状
現在、全国に約1万2,600の協力雇用主がいらっしゃいますが、実際に刑務所出所者等を雇用してくださっている事業主は、そのうち約500にとどまっています。また、建設業、サービス業、製造業が全体の約8割を占めるとともに、従業員規模100人未満の事業主が全体の約8割を占めています。刑務所出所者等の円滑な社会復帰・職場定着のためには、事業主の方々との適切なマッチングが重要です。そのため、幅広い業種の事業主の方々にご登録いただきたいと考えています。
懲役刑になって出所して仕事に就けるという流れはなかなか無いだろう。執行猶予が付かない理由の一つに、周囲の環境が影響している。身寄りの無い被告人に執行猶予はつき難い。反省しているか否かとは別に、執行猶予中に再犯しないことを考えれば、周辺環境を判決で考慮するしかないだろう。
受刑者の主要刑名を確認する。刑法犯と特別法犯の上位ということでまとめたが、特別法犯は覚せい剤取締法に集中している。下に男についてまとめた結果を示す。
■ 年末在所受刑者の主要刑名 (男)
罪名 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
総数 61,394 59,199 56,448 54,116 50,895
---------------------------------------------------------------------
窃盗 17,154 16,449 15,551 14,702 13,586
詐欺 4,586 4,387 4,089 3,997 3,970
強盗致死傷 4,425 4,285 4,003 3,744 3,497
殺人 3,609 3,426 3,282 3,139 2,969
強盗 2,283 2,200 2,092 1,965 1,866
強姦・同致死傷 2,141 2,009 1,929 1,887 1,835
傷害 2,353 2,219 2,112 1,962 1,777
---------------------------------------------------------------------
覚せい剤取締法 12,590 12,813 12,998 12,875 12,231
ここに挙げた刑名で全体の八割をカバーする。犯罪で想像する罪状が並んでいる。この分析を試みるのは、社会状況に関する調査に近付いてしまうような気がする。そこで先に進むことにする。受刑者の刑期について同様に確認した結果を下に示す。
■ 年末在所受刑者の刑期 (男)
年末在所受刑者の刑名・刑期
罪名 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
懲役 61,115 58,955 56,231 53,949 50,728
----------------------------------------------------------------
3月以下 20 23 8 23 22
6月以下 317 265 237 266 254
1年以下 2,673 2,317 2,121 1,983 1,827
2年以下 12,311 12,010 11,404 11,016 9,837
3年以下 15,286 14,955 14,422 13,841 13,211
5年以下 14,855 13,930 13,056 12,351 11,639
7年以下 5,721 5,417 4,941 4,573 4,216
10年以下 4,274 4,196 4,025 3,774 3,546
15年以下 2,881 2,928 2,977 2,945 2,885
20年以下 938 1,005 1,071 1,145 1,198
20年を超える 160 209 257 307 353
無期 1,679 1,700 1,712 1,725 1,740
----------------------------------------------------------------
禁錮 279 243 217 167 167
3月以下 1 0 0 0 0
6月以下 2 0 1 1 1
1年以下 28 31 23 12 18
2年以下 130 111 91 75 72
3年以下 84 71 75 56 50
5年以下 32 27 22 16 19
5年を超える 2 3 5 7 7
禁固刑の人数は少ない。道交法関係の受刑者が多いと言われる。懲役と禁固の違いは、禁固が舎房に閉じ込められるということであるが、実際には希望して懲役刑と同様の処置になることが多いようだ。
懲役刑に注目すると、短い1年以下の刑には受刑者が少ない。これは執行猶予が付くには3年以下である必要があり、初犯なら特に執行猶予が付くことがあるからだろう。執行猶予が妥当か問題のある事例も多く存在するだろうが、収容能力の限界が見えている中での判決となると、別の事情で執行猶予に流れるのだろう。こう言ってはsいけないのだろうが、実務運用が出来ないのに実刑判決ばかり出せないし、判事慰める為の言訳として、公正な判決を下すというのがある。
本題から外れたことに突き進むというのはいつもの話ではある。取り留めなく広がっていっても困るので、先に女受刑者の状況について記す。刑名と刑期
■ 年末在所受刑者の主要刑名 (女)
罪名 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
総数 4,557 4,646 4,654 4,610 4,421
---------------------------------------------------------------------
窃盗 1,328 1,387 1,400 1,433 1,386
殺人 484 465 447 432 402
詐欺 330 320 308 302 286
強盗致死傷 143 140 129 121 110
放火 153 128 113 99 83
---------------------------------------------------------------------
覚せい剤取締法 1,513 1,633 1,728 1,739 1,662
■ 年末在所受刑者の刑期 (女)
罪名 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
懲役 4,539 4,626 4,637 4,590 4,405
----------------------------------------------------------------
3月以下 2 0 1 0 0
6月以下 12 18 21 11 10
1年以下 197 190 209 167 204
2年以下 1,160 1,220 1,261 1,290 1,195
3年以下 1,329 1,356 1,403 1,375 1,337
5年以下 1,007 1,008 910 920 770
7年以下 261 246 224 228 254
10年以下 264 264 274 267 247
15年以下 160 163 171 165 155
20年以下 51 56 53 56 114
20年を超える 3 9 10 10 16
無期 93 96 100 101 103
----------------------------------------------------------------
禁錮 18 20 17 20 16
1年以下 3 3 2 2 3
2年以下 7 6 5 11 7
3年以下 6 8 7 5 5
5年以下 2 3 3 2 1
受刑者数の違いによって違った印象を受けてしまうのだが、男女の違いによる刑期の長さについては同じ様な傾向にあるようだ。女の方が重い犯罪に関わることが少ないと言われているし、実際そのようである。その程度の差はあるのだと思われる。
女受刑者の場合、覚せい剤取締法が1/3を占めている。窃盗と合わせると2/3程度で、上記の主要な刑で九割を占める。再犯率が高い犯罪である覚せい剤取締法違反で、刑務所で情報交換をするという話は都市伝説の類で片付けられないようだ。なぜ情報交換が可能かという事情について確認する。刑務所は、受刑者の状況によって収容施設が区分される。区分は下記のようになっている。
■ 刑務所の区分
A級 初入者で執行刑期が8年未満の者を収容する刑務所
LA級 初入者で執行刑期が8年以上の者を収容する刑務所
B級 主に再入者で執行刑期が8年未満の者を収容する刑務所
LB級 主に再入者で執行刑期が8年以上の者を収容する刑務所
M級 精神障害者を収容する刑務所
P級 病気の者を収容する刑務所
女子 女子のA級・B級・L級の被収容者を混禁している刑務所
F級 外国人を収容する刑務所
ここでLが付くのは刑期が長い、ということはLongの意味か、施設であり、初犯などの犯罪に深く関わっていないAとそうでないB、それに女子という区別である。この他に、精神障害者、病気、外国人という区別がある。
取り留めもなく広がってきたので、女子刑務所について確認して終わりにする。国内の女子刑務所は7施設ある。収容人員と共に下に示す。
■ 女子刑務所と収容定数
収容定員
札幌刑務所 508人
福島刑務支所 500人
栃木刑務所 648人
笠松刑務所 532人
和歌山刑務所 500人
岩国刑務所 355人
麓刑務所 302人
合計3,500人に満たない。受刑者数は4,000人を超えるから、どうしているのかと疑問も出る。MやP施設に移っている受刑者もあるだろうが、こんな疑問がどんどん出てくる。法務省は大枠の情報公開をしているが、マスコミの関心が向くところではないようだ。受刑者の生活環境を含めて興味を持って良いと思う。理由は厳罰化を進めようとするなら、軽い刑と重い刑の違いの認識なしには成立しないからである。殺せば良いとか、終身刑にすれば良いと半世紀前の頭でもっともらしく答えを示す。もう少し先人の議論と知恵を学んだ方が良い。それでもまだ、沢山の解決すべき問題があるのではあるが。
本題の協力雇用主は篤志家である。篤志家に頼り過ぎれば必ず破綻する。
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