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2015年2月24日 (火)

カシオの高級腕時計、国内生産6割増強 訪日客向け好調

カシオ計算機は高級腕時計の国内生産を6割増強する。訪日外国人の増加を受けて販売が好調なためで、主力工場の山形カシオ(山形県東根市)で10万円以上の商品を生産するラインの能力を8月までに月1万6千本に増やす。同工場は昨年夏に増産したばかり。円安を追い風に輸出も好調なため、一段の増産が必要と判断した。
カシオは山形工場で2004年からアナログ時計のムーブメント(駆動装置)の全量を生産。12年からは「G-SHOCK」や金属製アナログ時計「オシアナス」など価格が10万円以上の高級時計の組み立てを本格化している。昨年以降は円安による訪日客需要の高まりで、高価格帯の国内販売が伸びている。昨年8月には生産ラインを増設し、それまでの月6千本から7割増の1万本体制に拡充した。足元で中国の旧正月(春節)で訪れる中国人を中心に販売がさらに上振れしていることから、生産設備を増設して1万6千本の生産体制にする。「G-SHOCK」の中でも全地球測位システム(GPS)機能付きの高価格帯品は海外でも販売が好調だ。国内からの輸出を増やすことで円安による収益拡大も狙う。カシオの15年3月期は連結純利益が8年ぶりに過去最高を更新する見通し。中期経営計画では16年3月期に全事業の売上高営業利益率を15%に引き上げるとしているが、時計事業については今期に20%を超える見通しだ。(日本経済新聞:2月24日)


カシオの時計事業について考える。


カシオの高級時計というのが、ある種の形容矛盾に感じられたのがこの記事を扱った動機である。高級の定義が難しいが、高級時計というならパテック・フィリップのようなブランドを指すのだろうと想像する。高級というのが品質を示すのなら、時間を正確に示すという意味で、クオーツ時計では出荷時に限定すれば低価格の製品と高価格とで差は小さい。高価格で取引される機械式の方が性能では劣ることが多いだろう。高級を階級や地位が高いと解すれば、カシオに与えられる席次はそれ程高いものではあるまい。
カシオが高級時計と称しているのだから、そこに立ち入る必要もないと考え先に進める。カシオのホームページから販売価格を確認した。価格は税別で、所謂標準小売価格が表示されていると考えて良い。結果を下に示す。

■ カシオの販売価格帯
     販売価格(税別)     モデル数
         ~  10,000        75
    10,000 ~  20,000       244
    20,000 ~  30,000       136
    30,000 ~  50,000       116
    50,000 ~  70,000         42
    70,000 ~ 100,000        14
   100,000 ~ 200,000        19
   200,000 ~              9

655モデルのラインアップがあり、2万円未満で五割、3万円未満で七割と低価格帯に多くのモデルを用意している。同じサイトから、サイズ、表示別のモデル数についてまとめた。結果を下に示す。

■ カシオのサイズ、表示別のモデル数
  サイズ   アナログ  デジタル   コンビ    合計
  女性     204      52       56       96
  男性     429     109      173     147
  兼用      19       0       19       0
  合計     652     161      248     243

女性用のサイズではアナログが多い。カシオは色々な機能を加えた製品が多く、デジタルとアナログのコンビネーション品の数が多いことに特徴がある。全体的な傾向では記事の内容に辿り着けないことが分かったので、モデルごとに価格帯を分けて比較することにする。結果を下に示す。

■ カシオのモデル別販売価格帯
  モデル名       件数   2万円未満  5万未満  10万未満  20万未満 20万以上
  G-SHOCK       229     126       72      19      8       4
  BABY-G         144     104       40      0       0       0
  OCEANUS        23      0       0       9       9       5
  EDIFICE          39      0       30      9       0       0
  PRO TREK       41       0      22      17       2       0
  PHYS           20      20       0      0       0       0
  SHEEN          37       0      35       2       0      0
  DATA BANK       2       2       0       0       0      0
  LINEAGE         30       0      30       0       0       0
  SPORTS GEAR     28      28       0       0       0       0
  wave ceptor      42      19       23       0       0       0
  -------------------------------------------------------------------------
    計          635      299      252      56      19       9

色々な条件でモデル検索をすると、全体数が合わないという困ったことが生じる。2万円までと2万円以上のどちらの条件にも、2万円のモデルが該当するというのが分かって少し問題は減ったものの、男女やアナログデジタルの数は幾つか違う。小さな違いなので気にしないことにする。
10万円以上の価格となると、G-SHOCKとOCEANUSとPRO TREKが該当する。G-SHOCKは、落としても壊れない時計というコンセプトである。OCEANUSは、GPS電波と標準電波を受信するハイブリッド電波ソーラーウオッチである。PRO TREKは、温度センサー・気圧センサー・方位センサーを装備し、気温・気圧・方位を計測できるのが特徴で、標準電波を受信する機能を有する登山などのアウトドアで使用されることを想定したモデルである。(以上は、モデルのすべてに付加されている訳では無い)
カシオは機械式時計を販売していない。セイコー、シチズンは機械式時計を自社ムーブメントとして用意している。オリエント時計の機械式は途上国向けに位置付けられているようで、リコーに至っては機械式はない。

少し見方を変えてみよう。スイスの三大時計グループである、スウォッチグループ、リシュモングループ、LVMHグループは機械式の時計で大きな利益を生み出しているし、これに属さないロレックス、パテック、フランク・ミュラー、ブライトリングといった会社もある。スイスの時計産業の状況を確認する。

■ スイスの時計輸出数と金額 (単位:千台、百万スイスフラン)
        Mechanical          Electronic         Total
  Year    [ kpcs ] Mio of CHF   [ kpcs ]  Mio of CHF  [ kpcs ]   Mio of CHF
  2009     3,737    8,788     17,956   3,552      21,693   12,340
  2010     4,939   10,925     21,210   4,230     26,148   15,154
  2011     6,153   13,213     23,640   4,894     29,793   18,107
  2012     6,909   15,320     22,268   4,885     29,177   20,205
  2013     7,474   16,017     20,637   4,602     28,112   20,619
  2014     8,130   16,563     20,453   4,415     28,582   20,978

機械式はクオーツに比べ単価が十倍高い。数は三倍程度あるが、この価格差によって売り上げは機械式で大きくなっている。世界の主要な時計会社を売上高順に示す。売上高は2012年のものである。

■ 世界の主要時計会社の2012年時計事業の売上高 (単位:百万スイスフラン)
   会社          売上高
  Swatch Group     6,955
  Richemont        5,960
  Rolex           4,500
  Fossil           1,970
  LVMH/Bulgari      1,785
  Citizen          1,490
  Seiko           1,295
  Patek Philippe      1,150
  Casio            800
  Audemars Piguet     640
  Chopard          600
  Movado Group      465
  Breitling          350
  Franck Muller       300
  China Haidan       280
  Morellato & Sector   250
  Kering           250
  Folli Follie         250
  Festina           250
  Ulysse Nardin       220

Casioも9位にある。スウォッチグループ、リシュモングループ、LVMHグループの主なブランド売上高をまとめたものが下である。

  ● Richemont
     Cartier            2,380
     IWC              690

   ● Swatch
     Omega            2,230
     Longines           1,120
     Tissot              960
     Swatch             720
     Breguet            720

   ● LVMH
     TAG Heuer         980

 機械式の時計で商売している会社の売上高は、カシオの時計事業の売上高と同じくらいある。メンテナンスされた良好な機械式時計の日差は±15秒くらいだとされる。1日が1,440分であるから、この幅は0.03%に過ぎない。クオーツだとこれを年に変えてもクリアー出来るくらいである。つまり、時間を示すという機能においては、機械式はクオーツの競争相手にならない。記事のカシオの時計の目指しているものは、標準電波を受信して補正する機能であり、標準電波が届かない地域でもGPS電波を用いて同等の機能を達成することであり、更にサマータイムを付加したりすることである。それを金属のケースで成立させている。別のモデルでは、気温・気圧・方位を計測することを加えている。つまり、機能の足し算を行うことで商品が成り立っている。
機械時計に高い金を払う顧客は、時計の時刻を示す性能ではなく、正しい時刻を示そうとする技術と情熱に金を払う信者である。ステンレスのケースより、チタンの方が強く軽いというのは性能だが、金を選ぶのは見栄や情緒的な価値観かのいずれかだろう。しかし、信者は時として、お布施は高い方がご利益が大きいと思うものである。時間を示す機能にせいぜい日付けを加える程度で大きなお布施が入る。カシオの加えたギミックに信者が付くのだろうか。
アナログ表示のクオーツ時計で、出荷から電池交換まで所定の性能を維持するというのは相応の品質対策を実施すれば可能だろう。しかし、機械部品を含むからそれなりのコストを要する。これがセイコーやシチズンの高価格帯のクオーツ時計である。それを電波補正を加えれば、適度な機械部品で性能が維持される。つまりコスト低減の対策になる。アウトドアで気温は体温の影響を受けるし、気圧は高度と気象の影響を受けるから、前者では身体から外した状態においてから計測する必要があり、後者では地図上の高度との関係で補正処理をして気圧の変化を見積もるという作業をすることになる。悪いことではないが、それが重要なら別に持つ物である。まして方位はコンパスが小さく軽いことから、鞄に付けておくものである。日が出ていればアナログ時計の短針で南は確認できる。これは普通の時計の機能である。
本式の機能を時計に入れ込むには無理があるが、無いより便利であることは確かである。問題はこれに信者が付くかということである。カシオの目指す領域のご宗旨とは、最小限の構成による最低限の機能に価値を覚える保守的な時計信者の宗旨とは違う筈だ。この宗旨に信者が集まれば事業は大きく成長するだろう。そうでなければ、一時のブームに終わることになる。

シチズンでは1997年からグランドコンプリケーションという複雑時計をクオーツで実現したモデルを販売している。このムーブメントというか、OEM供給と思しき製品が幾種類も販売されている。シチズンではカンパノラというもう少し高い価格に位置付けられた製品に模様替えしている。グランドコンプリケーションといっても、永久カレンダー、ムーンフェイズ、ミニッツリピーター、スプリットセコンド・クロノグラフという時を計る機能に過ぎない。それでも20万円を超える価格になっている。永久カレンダーと言ったってこの手の時計の宿命で、電池交換は2年程度でやってくる。
ついでに加えるとカンパノラには、スイスのラ・ジュー・ペレの機械式ムーブメントのモデルをラインナップしている。ラ・ジュー・ペレは2001年に社名が変更される前はジャッケS.A.という名であった。シチズンが2012年にプロサーHDを57億円で買収したが、この会社の子会社で機械式ムーブメントを製造する会社を取り込んだ。ラ・ジュー・ペレは、社員150名で機械式ムーブメントを年間10万個製造すると過去の記事にあったが、現在も同じかどうかは分からない。シチズンは買収時に、シチズンブランドの時計にはスイスムーブメントを用いないとしていたが、カンパノラという別ブランドで機械式ムーブメントに付加価値を求める向きにはスイス製が最適と判断したのだろう。シチズンには、ザ・シチズンという機械式があるラインがあって、こちらは自社で生産していることを謳っている。付加価値という名の、教条とは宗旨によって変化するものである。



機械式ムーブメントを作れないか、作っても売れない会社には、タブレットPCを目指すよりないようだ。

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