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2014年4月14日 (月)

福島の法人、医大の新設申請

国がめざす東北地方の大学医学部の新設をめぐり、福島県郡山市の一般財団法人「脳神経疾患研究所」が市内での医科大学の新設を申請する方針を固めた。東京電力福島第一原発事故に見舞われた福島県から名乗りを上げるのは初めて。被曝医療や最先端のがんの放射線治療に携わる医師の育成に力を入れる方針だ。
同法人などが経営する南東北病院グループは陽子線や中性子線によるがん治療装置を導入するなど、がんの放射線治療に取り組んでいる。福島県では原発事故後に医師が減り続け、2012年12月末現在、人口10万人あたりの人数が東北地方で最少の約179人。法人は大学新設で医師不足が解消され、将来的には年間300億円以上の経済効果が見込めるとしている。文部科学省は医学部の開設時期について2016年4月を軸に検討。仙台市の東北福祉大と東北薬科大が構想を発表している。(朝日新聞:4月14日)


医師不足について考える。


医師数について確認したが最新のものが見つからなかったので、2006年の実績を厚生労働省の資料から引用する。この資料で全国平均は 206.3 である。都道府県単位でまとめて図示した結果を下に示す。

■ 全国の10万人人口あたりの医師数 (都道府県単位)

All_1
東西の比較では、西側で多く東側で少ない結果になっている。福島の例が記事で扱われているが、それより埼玉や茨城の方が少ない。今回用いたデータの東北六県と北海道の数値と医師数は下記の通りである。

■ 10万人当りの医師数と道県の人口
   道県      医師数    人口(千人)
  北海道     206.7      5,430
  青森      170.5      1,336
  岩手      174.1      1,294
  宮城      196.0      2,328
  秋田      188.9      1,050
  山形      187.9      1,141
  福島      176.1      1,947

人口も医師も移動するので変化はあるものだろうが、福島が低いとすれば青森も岩手もそれ程差のない水準であることが予想される。東北は全体的に低いと思っていて外れてはいないようだ。県内の分布を確認することにする。同じ年でのデータが用意出来なかったので、2010年の医師数と、2014年4月の人口で、市町村単位で分布を確認した。福島県の186.1 に近い、185.0 であった神奈川について同様にまとめて比較することにする。結果を下に示す。

■ 福島県と神奈川県の10万人人口あたりの医師数 (市郡単位)
Fk_1
福島県では医師数の多い地域が幾つかあり、多くは医師数の少ない地域になっている。多い地域が福島県の人口の多い市で、少ない地域は村などの人口の少ない地域である。実際、町村で医師が0が4つ、1が9つある。人口と合わせて下に示す。

■ 医師数 0 の福島県の村の人口
  大玉村      8,412
  北塩原村     3,464
  湯川村      3,633
  葛尾村      1,627

■ 医師数 1 の福島県の町村の人口
  檜枝岐村      740
  柳津町      4,410
  金山町      2,935
  昭和村      1,681
  泉崎村      6,874
  中島村      5,313
  鮫川村      4,452
  古殿町      6,567
  川内村      3,165

人口はそれなりの数になっているが医師数が少ない。医師がいないのは危険な状態だが、1人しかいないというのも同じレベルで深刻である。比較の為に用いた神奈川県では医師数の少ない町村は、真鶴町(3)、清川村(5)、山北町(5)である。真鶴は湯河原町(44)に接していて、清川村は厚木市(379)に接し、山北町は松田町(66)に接する。距離は離れるとはいえ医師の多い地域があることは心強い。ただし、医師数を人口で単純に割ることで計算すると、規模の大きな専門病院があるとその地域は見かけ上医師数が多くなるが、地域医療への貢献は限定的にある。湯河原町の44名には、湯河原厚生年金病院の17名が含まれる。この病院には一般内科はあるものの、リウマチ科やリハビリ科で有名な病院である。仮にこれを含まなければ湯河原町の10万人医師数は169から104に低下する。
10万人あたりの医師数を算出して比較するのは単純で議論の最初には良い方法だと思うが、具体的に医師数をどこで増やそうと考える材料に用いるには馴染まない部分がある。神奈川県のように比較的平坦で人口の分布に偏りが小さい県と、福島県のように山で分割され人口分布が偏っている県とでは見えてこない情報がある。市町村に分割して計算すれば精度が高いかといえば、人口が少ない地域で医師が一人いるかいないかで決まるとなると総論の話をしているつもりが、一気に各論に飛んでしまう。導入部分でこの数字を使うことが多いが、最後までそのままになっている例が多いことを見ると、この数字を指標として用いるのは妥当だという理解があるのだろう。ざっくりとした話に過ぎないと認識すべきところだと思う。

話を戻す。都市部においても大学病院があると著しく医師数が増加する。医療に従事するのだから良いという考え方はあるだろうが、地域の中核病院の医師数を別にカウントして整理することで見えてくることがありそうだ。医療の役割分担を考えるのなら、医師数についても同様に区別して状況を調べる必要がある。医師の業務を固定化する必要はないが、流動性を求めるのなら状況の理解は必須だろう。少なくとも、今後地域医療に貢献する医師を増やそうと考えているのなら、この業務の特性を明らかにするとともに、その先に医師としてのキャリアアップの道があることが示されなければ怖くて進めないだろう。
国公立の医学部での学費は500万円くらいだが、私立では10倍高いのが代表的な学費である。つまり、儲からない過疎地域での地域医療に従事するということは、大学の学費の安い国公立大学か、地域医療を一定期間指定されている私立大学 (学費の減免がある) のいずれかしか経済的に成立しない。前者に義務があるのではないのなら、国は優秀な若者に篤志家になることを勧める教育を施すことにするのだろうか。
医療の充実は正しいし、地方の医師不足も事実である。しかし、医学部の新設の話は、聞こえの良いスローガンを隠れ蓑にして、医療関係の利権にありつく輩の行動にしか見えない。いくつかの大学が計画しているようなので、別の機会に検討することにしよう。


マップ表示に用いたのは下記のアドレスのソフトである。なかなか便利だ。

http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/

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