« ミスタードーナツ:10~11円値上げ | トップページ | みんなの党と政党の動き »

2013年12月 8日 (日)

農業の生産性

契約栽培で農家の経営安定化の話が朝日新聞にあった。農業について考える。


五割を下回る国内の自給率に対する対策として、政府が掲げる方針は、単純にまとめてしまえば、大規模化によって機械の導入を行い生産性を向上させるというものである。もっともな話なのであるが、高価の程には甚だ疑問がある。この国の国土は面積が少なく、特に農業に適した平坦な畑に適する土地の面積が少ないことが特徴である。更に加えて人口密度が高く、二次産業の発展により利便性の高い平坦な土地が工業利用に開発されてしまっているということもある。この状況の中で、大規模化、機械化を実現しようとしても難しいのは自明である。
TPP交渉で農業の自由化を日本に迫るニュージーランドと比較してみる。ニュージーランドと日本の農業に関係する項目について比較したものを下に示す。

■ ニュージーランドと日本の比較
    国名        ニュージーランド          日本
  GDP [億US$]             1,628          58,704
   うち農林水産業        91 (5.6%)        674 (1.1%)
  1人当たりGDP [US$]  36,874          46,407
  国土全体 [km2]     267,700         378,000
  農用地 [km2]      113,700 (42.5%)      45,600 (12.1%)
  人口 [万人]          441         12,653
  人口密度 [人/km2]     16.5           334.7

ニュージーランドは日本の3/4の面積の国土を有しているが、人口は日本の3%程度に過ぎない。人口密度については20倍の差がある。農用地面積に注目すると日本の2.5倍近く大きいと差がある。日本はGDPの拡大を、狭い国土の農地を工場用に変更することで達成したと言える。GDPの圧倒的な差は、工業化の達成が出来た日本と、それをしなかった (出来なかった) ニュージーランドとの違いと言える。どちらの国が幸せかは思想的な問題になってしまう。そんなニュージーランドでも農林水産業のGDPに占める割合は5.6%とびっくりするほど高い訳ではない。
ニュージーランドの自給率には300%などという都市伝説があるのだが、彼の国の政府が発表している食料自給率は穀物自給率のみで70%だという。酪農が盛んな国なので、カロリーベースにすれば相応に上がるだろうが、300%は怪しいものである。訂正する人がいないようで、検索すると良く見る数字である。

この辺りの数字を眺めると、大規模化・機械化による農業の生産性向上は期待できても、可能な土地が限定されることが予想されるから、国内の食糧自給率の向上までには至らないことが予想できる。そもそも大規模化には自給率向上を目的にはしていないだろう。農業の産業競争力を構築することと、自給率向上を目指しているのは別の部門の考えなのかもしれない。それぞれが類似した目標を掲げていても、実際のところは別のことを考えているというのは良くある話である。食料に関する幻想は役所の責任で整理して貰いたいものだと考える。まさか、この目標が国家機密だとは言うまい。

農地の拡大が困難となると、単位面積当たりの生産性を向上させるよりない。そこで、野菜の種類による単位面積当たりの売上高を算出することにする。野菜の重要単価は大田市場年間取扱高(2010年)の数字を用いた。単位面積当たりの収量は、農林水産省の平成23年産野菜(40品目)の作付面積、10a当たり収量、収穫量及び出荷量(全国)を用いた。主な野菜の面積当たりの売上高を下に示す。

■ 野菜の重量単価と、単位面積当たりの収量と売上
   野菜      価格(千円/kg)  収量(㎏/10a)  面積当り売上(千円/10a)
  はくさい          69       4,950        341,609
  だいこん         92       4,280        395,409
  にんじん        140       3,230        451,673
  ばれいしょ       168       2,960        496,921
  ほうれんそう     494       1,210        598,240
  キャベツ        103       4,080        418,927
  ブロッコリー      317        959        304,318
  レタス         180       2,620        471,533
  たまねぎ       125       4,410         549,373
  ねぎ          326       2,100        685,373
  かぼちゃ       165       1,170         193,317
  なす           331       3,220       1,064,514
  きゅうり         294       5,000       1,468,788
  ピーマン        445       4,190       1,864,190
  トマト          374       5,860       2,190,439

なす、きゅうり、ピーマン、トマトの売上が大きいのは、一本の苗から多くの実を収穫できるからである。かぼちゃも実がなることは一緒だが、収穫期間が長くてツルが広がることから面積当たりの売上は低くなってしまう。それ以外の野菜で、ばれいしょ (じゃがいも) とねぎは異なるが、一つの種から一つを収穫する野菜となる。栽培期間は数ヶ月から半年弱となる。重量当たりの価格の差は、野菜がどれだけ大きくなるかによる差に近い。にんじんとだいこんの栽培期間は同等と考えて良いが、重量価格に1.5倍の差がある。重いがだいこん安く、小さく軽いにんじんが高いと考えて良いだろう。ほうれんそうの価格が高いのは、軽いことに加え、収穫作業に人手が掛ることによるだろう。これは、小松菜やちんげん菜であっても似た金額になるだろう。小松菜とほうれんそうを同じくらいとするなら、小松菜と同じアブラナ科の白菜は、重量価格に5倍以上の開きがある。これもにんじんだいこんの理屈ということになる。

野菜栽培の工業化の検討がなされている。管理された温室で栽培する手法であるが、面積当たりの栽培数を増やすのは難しいだろう。水耕栽培の様な方式であるだろうから、実がなるものでツルがないもの、つまり、トマトやなす、ピーマンというのが候補となる。根菜は適さないから、小松菜のようなものが候補になるだろう。(ほうれんそうでも良いが、ほうれんそうの方が栽培環境が厳しいから小松菜の方が対応し易い) 面積当たりの収量では変化がなくても、年間の収量を増大させることは可能性がある。温室のような温度管理がなされた場所であれば、栽培回数を2倍以上増やせる可能性がある。実際に検討するのならこちらであるだろう。
水耕栽培でも産品に、栄養上の問題があるという指摘もあるようだ。現段階で水耕栽培に最適化した品種改良は成されておらず、病害虫予防に必要以上に手を掛けていることを考慮すれば当然予想される話ではある。期待ばかり大きくなるのは、事業が失敗する典型的な進行であるので、状況をオープンに議論することを期待する。

TPPで食糧自給率の話が出てくる。国防の話でも出て良さそうだがこちらでは扱われない。有事の際に国内に備蓄された食糧でどのくらい対応できるかというのは、専門家たちは計算していることと思う。輸送に影響が出る様な有事というのは、数ヶ月で終わるとは限らないので一年程度の供給停止で何が起きるかは検討課題である筈だ。原油の供給停止は、他国の政情不安によるものなので検討できるが、自国が関係した臨海での有事というのはタブーであるのだろうか。しかし、自衛隊の将来計画では、東シナ海での有事を想定しているように見える。少々公開されている情報が乏しいように感じる。それほどの機密性が必要な課題ではないと思うのである。

地産地消というのは、地元で不味いものを食べて農業を継続させろと言う意味が第一義である。鮮度の高いものが美味いというのが第二義にあるのだが、調理方法も関係するから単純な話ではない。別の観点で、分散化というのは有事の際のリスクヘッジになる。先の震災において輸送網は崩壊した。これが回復するまでの期間に、現地に食料生産が行われていれば、最小限の輸送によって食糧が供給される。しかし、分散化は生産効率の低下を必ず伴う。美味い物を効率よく生産するなら、大規模集中生産が適している。これは、東日本大震災の様な大規模災害でなくても、ちょっとした冷害の発生に対しても不作を引き起こす要素となる。食料自給率の向上をリスク回避の手法として考えているのに、気候変動リスクに対する対応力を下げる政策を行うということに違和感を覚える。本当のところ、農業の形式的な生産性の向上が達成されれば良いと考えているのではないかと疑っている。


廃棄食糧を減らすのが本筋だと思う。

« ミスタードーナツ:10~11円値上げ | トップページ | みんなの党と政党の動き »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« ミスタードーナツ:10~11円値上げ | トップページ | みんなの党と政党の動き »

2017年7月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ