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2013年12月30日 (月)

スウォッチ工場で火災

スイスの時計大手スウォッチは12月29日、同国北西部グレンヘンにあるグループのムーブメント製造会社「ETAマニュファクチャー・ホルロゲア」の工場で同日朝、火災があったと発表した。けが人などは出なかったものの、「被害は甚大」としている。出火原因は不明。
スウォッチのハイエック最高経営責任者(CEO)はスイスのラジオに対し、部品にさび防止用の亜鉛を処理する電解工場が全焼したと語った。他の工場で部品供給などの対応は可能だが、生産面で調整が必要になるという。(時事通信:12月30日)


年末で経済関係の記事も少ない中で流れてきたニュースを考える。


テレビやラジオの報道ではスイスの時計会社のスウォッチの工場で火災が発生したというものである。ETA社であろうことは容易に想像できる話で、その先への影響がどの程度でるかが気になることであった。しかし、ETA社は機械式ムーブメントの供給を停止する話が以前あったと記憶する。少し整理しよう。
ETA社が現在の形として誕生したのは 1985年である(創業は1856年)。SMH(スウォッチグループ)グループの子会社として現在はスイス時計のムーブメント専用会社となっている。ETA社はムーブメント会社の連合体でなっていて、エボーショSAを母体にもつムーブメント専門会社の連合組織である。
エボーシュ(ebauche)というのは、ムーブメント製造メーカーが生産する未完成のムーブメントのことを指す。スイスの時計産業は部品専業メーカの集団として成り立っている側面がある。もちろん、自社一貫製造するマニュファクチュール(Manufacture)の時計メーカーも存在する。2000年代初頭において、スイスで生産される機械式時計の80~90%がETA社製のムーブメントを採用していたと言われる。2002年にSMHはグループ外へのエボーシュの提供を段階的に停止していくと発表した。関係会社のスイスの公正取引委員会コムコ(COMCO)への提訴により、内容は下記のように改められた。

 ◾ 2008年に複雑時計用エボーシュ(パーツ単位)の供給停止、ムーブメントの供給量を85%まで削減
 ◾ 2009年にはムーブメントの供給量を50%まで削減
 ◾ 2010年にはムーブメントの供給量を25%まで削減
 ◾ 2011年には独立企業の顧客にのみ完成ムーブメントを提供

2011年にCOMCOは部品の供給削減を認めたが、2013年7月にはムーブメント部品の段階的な供給削減は認めるが、現時点ではニヴァロックス社製のヒゲゼンマイの代替品が存在しないことから、ムーブメント中心部一式に関しては供給削減許可を取り消している。スイスの時計産業は派手な企業買収が行われて、SMHの他に、CartierとVacheron Constantinを傘下におくリシュモングループ(Richemont)と、Tag Heuer、Zenith、Hublotのモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)の三つのグループに分けられた。もちろん、これに属さない高級ブランドも存在するが、世界の高級機械式時計はこのグループに集約されたと言って良さそうである。よって、SMHは日本のメーカをライバルとは考えていないだろう。
SMHの側に立てば、RichemontとLVMHは、潤沢な資金力を有するのに、製造がそれほど困難でもないヒゲゼンマイを製造手段への投資を怠ってきたということなのだろう。その投資をしないで、安く買ったムーブメント部品で高級時計を販売して利益を得ていたという理屈になる。そもそもETA社が国策企業のような形で再構成された経緯を考えれば、特定の時計企業グループに属して外部に供給しないという論理は通らないように思うが、COMCOは一度認めているところからすると微妙な話が絡んでいるのだろう。LVMHはフランスの会社だし、リシュモンは創業者が南アフリカ人だし、米国のラルフローレンと関係しているという理屈も作れないではない。スイス国内資本を優先するという話を表にすれば問題になる。
今日のスイスの機械時計産業は、ケース、文字盤、ブレスやバンドは中国で生産されているものであるし、デザインもスイス製とは主張できないだろう。つまり、スイスメイドであることの証は、ムーブメントと最終組み立てをスイスで行っていることにある。ETA社のムーブメントは特許で守られるような技術ではなく、複雑な機構を用いないシンプルな製品で、長期に渡ってリファインを繰り返してきたもので、整備性や部品の供給に優れるという特徴を持つ。つまり、近年台頭してきているタイや中国のムーブメントでも見掛け上は代替可能であると予想される。実績の乏しいことが信頼性に劣る部分ではあるが、継続することで補える可能性はある。
広告で掲げる複雑な機構は、当然のことながらそのブランドのすべてに適用されるものではなく、限られた製品にのみ適用されている。数を生産するモデルではETA社製ムーブメントを使い、年数台作るモデルに複雑な機構を使うという図式でビジネスを行っている。マニュファクチュールといっても全数自社ではなくて、ETA社から部品調達している場合もあるし、エボーシュで改良して使えば自社製なのだから当然ではある。

さて、SMHの売上高と時計部門売上の推移を確認してみる。

■ SMH売上高と時計部門売上の推移 (単位:百万スイスフラン)
        2012  2011   2010  2009   2008  2007   2006   2005   2004  2003   2002  2001   2000
時計売上 7,297  6,312  5,532  4,444  4,796  4,710  3,912  3,437  3,141  2,921  2,980  3,033  3,120
売上高   8,143  7,143  6,440  5,421  5,966  5,941  5,050  4,497  4,152  3,983  4,063  4,181  4,263

単位のスイスフランは米ドルと同じくらいだと思って良が、米ドル/スイスフランのレートは2000年から2012年まで1.7~0.9に連続的にスイスフラン安側に推移している。
時計部門 (正しくは時計と宝石部門) の売上高は 2004年以降伸びている。(2009年はリーマンショックの影響) 2011年が2004年の二倍に伸びているのは、ムーブメント部品が完成品ムーブメントに、ムーブメントが完成品の時計に移ったであろう影響はあると思われる。しかし、上記のような経緯もあることからすると、普通の企業努力とも解釈できる。
ETA社の工場が火災にあったことは外部への供給に影響がでそうであるが、そうしたらCOMCOは是正するよう指導するのだろうか。地場産業の保護に動いて、思いのほかの効果が出たので通常の産業並みの法律を適用するというバタバタした感じは呆れるというより、ほほえましいとさえ感じてしまう。そうはいってもスイス全体で、2012年に214億フランの輸出金額のある産業である。参考の為に記すとスイスのGDPは、5,919億フラン(2012年)で3.6%を占めることになる。競争力があるのだから大切な産業ではある。


中国の会社がスイスの小さな時計会社を買収すれば、スイスメイドの中国時計が大量に出回る。高級か否かは分からない。

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