7月の参院選「無効」 1票の格差で高裁岡山支部
「1票の格差」が最大4.77倍だった7月の参院選を巡り、升永英俊弁護士らのグループが岡山選挙区の選挙無効(やり直し)を求めた訴訟の判決で、広島高裁岡山支部(片野悟好裁判長)は11月28日、選挙区の定数配分は「違憲」と判断し、同選挙区の選挙結果を無効とした。参院選の1票の格差を巡る訴訟で、選挙無効を命じる判決は初めて。
3年で半数が改選するという制約のある参院では格差「5倍未満」が合憲の目安とみられてきたが、判決は投票価値の平等を重視。選挙制度の抜本改正を先送りしてきた国会の怠慢を指弾した。判決が確定すれば岡山選挙区から当選した自民党の石井正弘氏は失職するが、被告の岡山県選挙管理委員会は上告する。
判決理由で片野裁判長は「参院だから投票価値の平等が後退してよい理由はない」と強調。2010年参院選後に行われた選挙区定数の「4増4減」を経ても、「7月参院選の最大格差は5倍に匹敵し、投票価値に著しい不平等があった」と判断した。
さらに、05年に参院改革協議会の専門委員会が「現行の選挙制度を維持する限り格差を4倍以内に抑えるのは困難」と報告していたと指摘。07年参院選を巡る09年9月の最高裁判決が選挙制度の見直しを求めていたが、今年7月の選挙まで約3年9カ月の間に「抜本的見直しの具体案を国会に上程すらしていない」と批判した。そのうえで「国会が不平等の是正措置を講じなかったのは裁量権の限界を超え、定数配分は違憲」と結論づけ、鳥取選挙区との格差が3.27倍だった岡山選挙区の選挙結果を無効とした。(日本経済新聞:11月28日)
度々扱う一票の格差の参議院版である。
最高裁で、衆議院議員選挙の一票の格差については違憲状態との判決が出た。違憲状態というのは非常に深刻な状態であることを示した判決であるが、国会の反応は違憲ではない緩い判決との受け止め方に見える。これでは選挙制度の見直し作業が進むとは到底思えない。最高裁の判決があった、つまり判例 (法律と同じ扱いである) が出たことで、参議院の一票の格差についての裁判にも影響が出るだろうと考えられた中での最初の判決であった。
今回の判決を含め15の裁判が各高裁で予定されている。判決日と高裁名に、衆議院選の一票の格差での担当裁判長と結果を下に示す。判決日の順として、広島高裁については衆議院選の扱いが二件だったので合わせて表示した。
■ 参議院選挙の一票の格差に関する高裁判決予定日と衆議院選判決(×:選挙無効、 ▲:違憲、△:違憲状態)
判決日 裁判所 (衆議院選裁判長) 衆議院選判決
11月28日 広島高裁岡山支部(片野悟好裁判長) ×
12月05日 広島高裁(筏津順子裁判長) ×
広島高裁(小林正明裁判長) ▲
12月06日 札幌高裁(橋本昌純裁判長) ▲
12月16日 名古屋高裁金沢支部(市川正巳裁判長) ▲
12月16日 高松高裁(小野洋一裁判長) ▲
12月17日 福岡高裁那覇支部(今泉秀和裁判長) ▲
12月18日 大阪高裁(小松一雄裁判長) ▲
12月18日 名古屋高裁(加藤幸雄裁判長) △
12月19日 福岡高裁(西謙二裁判長) △
12月20日 東京高裁(難波孝一裁判長) ▲
12月20日 仙台高裁(宮岡章裁判長) ▲
12月20日 福岡高裁宮崎支部(横山秀憲裁判長) ▲
12月25日 広島高裁松江支部(塚本伊平裁判長) ▲
12月25日 東京高裁(奥田隆文裁判長) ▲
12月26日 仙台高裁秋田支部(久我泰博裁判長) ▲
衆議院の案件と、参議院の案件が同じ裁判長であるか否かは確認していない。広島高裁岡山支部については同じであった。12月26日までの年内いっぱい高裁判決が続く。衆議院選挙での最高裁判決で触れたが、裁判官というのは自分自身が出した判断を変えない傾向があるように思える。同じ事情であれば、同じ判決を出すことが司法制度の安定性を高めて、信頼を高めるものだという考え方になっているのではないか。昨日の判決と今日の判決で結果が異なるようであれば困ったことが起きるから、これは当然の要求であると思うが、自分の下した判決の誤りを決して認めないということでもあり注意を要する。
最高裁の判決による影響があると考えていたが、最高裁と当該の判決日からすると判決日の早い高裁は国会に厳しい判決となり、後の判決では最高裁の判断の影響を受けたものになるだろう。次に予定される広島高裁は裁判長は確認していないが、選挙無効に近い判決が出る可能性がある。その翌日の札幌高裁までは違憲以上の判決が出るだろう。衆議院選で違憲状態の判決であった名古屋高裁と福岡高裁は違憲状態の判決になるだろう。その流れでいくと、名古屋高裁金沢支部以降の4件の高裁判決を国会議員は注目することになるだろう。
判決を受けての国会議員の発言は、一応緊張感のあるような話し方をしているが、広島高裁は例外だからという思いはあるようだ。衆議院選に関する最高裁判決で楽観的に考えているようだがそうもいかない事情がある。2009年、2012年の最高裁での各判事の判断と、退官予定を下にまとめた。
■ 最高裁判所判事と一票の格差(衆議院選)判決と判事退官予定 (○:合憲、△:違憲状態、×:違憲、・:任命期間でない、―:参加せず)
2009判断 2012判断 氏名 出身 退官日(予定)
△ ・ 那須弘平 弁護士 2012/02/10
× ・ 宮川光治 弁護士 2012/02/27
○ ・ 古田佑紀 検察官 2012/04/07
× ・ 田原睦夫 弁護士 2013/04/22
△ ・ 竹内行夫 行政官 2013/07/19
△ △ 竹崎博允(長官) 裁判官 2014/07/17
△ △ 横田尤孝 検察官 2014/10/01
△ △ 白木勇 裁判官 2015/02/14
△ △ 金築誠志 裁判官 2015/03/31
・ △ 山浦善樹 弁護士 2016/07/03
△ △ 千葉勝美 裁判官 2016/08/24
△ △ 桜井龍子 行政官 2017/01/15
△ × 大谷剛彦 裁判官 2017/03/09
・ × 木内道祥 弁護士 2018/01/01
△ △ 寺田逸郎 裁判官 2018/01/08
・ × 大橋正春 弁護士 2017/03/30
・ △ 小貫芳信 検察官 2018/08/25
・ △ 鬼丸かおる 弁護士 2019/02/06
△ △ 岡部喜代子 学者 2019/03/19
・ ― 山本庸幸 行政官 2019/09/25
次の一票の格差の訴訟が起きるのは2016年以降になるだろう。2017年1月とすれば、今回の最高裁判決に関わった判事の9名が残っていることになる。判断は違憲3、違憲状態5、参加せず1となる。判断を変更しない傾向は残るだろうから、新任の判事の判断によるが、流れは違憲側に行っているから選び方を工夫しないと違憲になってしまう。国会運営に配慮する判事を選べば国会には幸せが届けられるが、露骨にそれをすれば微妙な判断が違憲側に傾くことだろう。選挙制度改革より簡単ではあるが、事故を起こさずに凌ぐのは難しいようだ。
国会議員の中には、選挙で選ばれた国会議員が、試験で採用された法律家(全てではないが大きな流れとして)に従わなければならない制度を嫌うものがあるようだ。違憲状態であっても選ばれた者に権利があるという選挙至上主義は危険というより、思考能力が停止している発想だろう。そこまで言うなら、安倍家には5,000票、麻生家には3,000票と家柄で票数を振り当てれば良い。これは公平性に欠けるというなら、10万票を1億円を最低ラインにした票の公開入札をすれば良い。入札された資金は国庫に入るから税収が増える。数千万円の選挙資金が掛るなら、入札で済めば済むと考える人もいるだろう。裁判官を嫌う気持ちは分からないではない。しかし、不適切な選挙で金に物を言わせて席を獲得した議員を全面的に尊敬する気にはならない。自分たちで決められないなら誰かにやって貰うというのが知恵だろう。そんな知恵もないというのが国会議員ということか。
高裁には最高裁を見ないで、善良な国民を見て貰いたいものである。
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