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2013年8月26日 (月)

はだしのゲンの閲覧制限を撤回:松江市教委

松江市教委が故中沢啓治さんの漫画「はだしのゲン」の閲覧制限を全小中学校に求めている問題で、5人の市教育委員による臨時会議が8月26日、松江市役所であった。22日の定例会議で結論が出ず、この日改めて検討した結果、「市教委が学校側に閲覧制限を一律に求めたことに問題があった」「子供に見せるか、見せないかは現場に任せるべきだ」との意見が多く、制限を撤回することを全会一致で決めた。(毎日新聞:8月26日)


前回書いてから少し変化があったようなので記す。


松江市教育委員会が閲覧制限に動いた切っ掛けは、在日特権を許さない市民の会のメンバーによる陳情であったようだ。このは、会は右翼と呼んで良い団体であるようだ。メンバーに一般の社会人が多いようなので、街宣車を走らせる右翼とは構成が違うのかもしれなが、新大久保でヘイトスピーチで騒がしい団体ではあるので、静かであるとは言い難い。
残酷なシーンや、歴史的な証拠資料のないまま描かれている部分があるというのが会の閉架措置を要望した理由となっている。前者はそれほど重要ではなく、後者が主たる理由だろう。はだしのゲンが原爆禁止を推進するマンガであることが許し難く、天皇の戦争責任に言及するのも気に入らない部分なのだろう。これらの部分は、所謂第二部である少年ジャンプ連載であった時代の後に左翼系雑誌に連載されたものである。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いということでもないだあろうが、左翼系の雑誌に書かれたものが正しい筈がないという思い込みがあるのではないかと思えてしまう。左翼系の雑誌には左翼系の発言が掲載されるので、鶏と卵の関係でしかないので意味はない話でしかない。この右翼団体のメンバーにはお気に召さない内容であったということである。
左翼系の主張はというと、子供にぜひ読ませたい内容だというのが多い。右も左も自分にとって都合が良いか否かでしか考えていない点では同じである。自分にとって都合の悪いものは排除して、都合の良いものを広めようというのは、布教活動としては通常の作業の作業かもしれないが、図書館運営には別の宇宙の話である。敵国の書物を排除した時代と似る。ローマカトリックでも、1992年、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が、ガリレオ裁判が誤りであったことを認め、ガリレオに謝罪している。ガリレオの死去から実に350年後のことである。誤りを認めただけ優れるという判断はある。排除の論理で片付くほど現在は単純ではない。

この国には理性的な人がいない訳ではないようだ。日本図書館協会は8月22日に要望を発表をした。リンクはいつ切れるか分からないので下にコピーを記す。理性的な内容になっている。右翼の発言に情緒的なもので支配され、ある種暴力的な乱暴さを感じるのと大きな違いがある。前回の話は、日本図書協会の要望に集約されているのでここまでとする。

はだしのゲンが、原爆禁止を主張するマンガであるというのが、右翼にも左翼にも共通して認識のようである。原爆の被害を体験した人が、核武装推進を掲げる筈はないのであるので、一般論としては正しいように思えるが少し違うように感じる。第一部は読んだ記憶があるが、第二部の方は部分的に読んだ程度であるので、第一部に寄ってしまっていることをあらかじめ書いておく。その範囲で感じるのは、作者が戦争と原爆被害の体験をして、その当時の人達がどんな大変さを受けたか、どのように感じたかを後世に残したいと思ったのではないだろうか。結果として原爆の悲惨さを訴えているにしても、それは惨状を見たものには当然のことであるし、戦争の悲惨さや、軍への批判や、天皇の戦争責任に言及するのもマンガが描かれた当時の世相とすればあって然るべきことなのだろう。ただし、第二部については、掲載雑誌が左翼系のものに変わったことで少々自由というか、偏りがでたのかもしれないと感じる。軍や天皇への批判は第二部に集中している。第一部については子ども向けの一般マンガ誌である少年ジャンプに掲載されていたから、事実関係の不確定な内容や必要以上に残虐なシーンは控えられたと想像が付く。
右翼も左翼も、自分の都合の為に作品を利用しているに過ぎない。左では原爆禁止といい、右では戦争の悲惨さを過大に表現していると。この作品を読んでどう感じるかは読者の勝手であろう。作者が原爆禁止を願っただろうが、それを好む人も好まない人もあるだろう。それでも原爆の悲惨さを経験した人が残しているという事実から離れた議論は空疎でしかない。嫌いな作品だから子供の目に触れない場所に移動せよというのは幼い、というより、頭が悪い。大の大人のする発言ではない。戦時の模写が事実と異なるなら、事実であることを資料として提供すれば良い。その努力もしないで、作品批判をするのが子供なのである。
念の為付け加えるが、教科書に掲載するなら事実関係を調べて問題がないことを確認する必要があることに賛同する。図書館にあるものは、正しいものも間違ったものもあってよい。しかし、その時代の為政者の都合で選択することは許されない。間違ったことをした事実を隠蔽するのは、悪いことをする者の典型的な手口である。


日本図書教会がこれほどまで頼もしく思えたことはない。

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▼ 松江市教育委員会委員長、松江市教育長に宛てた、日本図書館協会 図書館の自由委員会委員長からの要望書 (2013年8月22日)

中沢啓治著「はだしのゲン」の利用制限について(要望)

 松江市立小中学校52校のうち39校の学校図書館が中沢啓治著「はだしのゲン」の単行書全10巻を所蔵しています。報道によれば、昨年8月に一市民が市議会に「子どもたちに誤った歴史観を植え付ける」として同書を学校図書館から除去することを求めて陳情し不採択とされたところ、松江市教育委員会は12月の校長会で、旧日本軍が中国大陸で中国人の首を斬ったり性的暴行を働く「過激な描写」が「子どもの発達上、悪影響を及ぼす」として、学校図書館において児童生徒への提供を制限するよう要請し、現在、全学校図書館が全10巻を書庫に入れ、児童生徒が閲覧するには教員の許可を、校外貸出しには校長の許可を得なければならないとされています。

 貴委員会は「閲覧や貸出しの全面禁止でなければ、(日本図書館協会が表明する)図書館の自由を侵さないと独自に判断」されたと報道されています(「中国新聞」8月19日)。
 しかしながら、日本図書館協会「図書館の自由に関する宣言」(1979年、総会決議)は、図書館は国民の知る自由を保障することを最も基本的な任務とし、図書館利用の公平な権利を年齢等の条件によって差別してはならず、「ある種の資料を特別扱いしたり、書架から撤去したりはしない。」と明記しています。各国の図書館專門機関による国際図書館連盟は、図書館はすべて利用者に資料と施設の平等なアクセスを保障しなければならず、年齢等の理由による差別があってはならないとしています(IFLA Statement on Libraries and Intellectual Freedom 1999)。学校図書館の蔵書についての紛争や裁判を数多く経験するアメリカ合衆国の図書館協会は、年齢によって図書館利用を制限することを戒め、貴委員会と同種の提供制限措置を「目立たない形の検閲」であるとしています(Intellectual Freedom Manual 2010)。
 学校図書館において利用が制限されている蔵書を読みたい子どもが、教師さらに校長の許可を求めることの心理的負担は、とても大きいのではないでしょうか。子どもたちはその本を読むことが教師や校長から良くないことだと思われると受け止めるのではないでしょうか。そして場合によっては、読むことを諦めるのではないでしょうか。子どもたちは、学校図書館を、蔵書の内容によっては自由に手に取り、読むことを抑制する場であると受け止めるのではないでしょうか。学校図書館の自由な利用が歪むことが深く懸念されます。

 「児童の権利に関する条約」(1989年11月20日,国連総会採択.1994年3月29日 国会承認)第13条は、子どもは「表現の自由についての権利」と「あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由」を保障されるとしています。同条第2項は、この保障が除外される場合として「法律によって定められ、かつ次の目的のために必要とされるものに限る」として「(a) 他の者の権利又は信用の尊重 (b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」としていますが、本件図書はこの除外要件には該当しないでしょう。

 子どもの読書活動の推進に関する法律(平成13年法律第154号)は、「子どもの読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものであることにかんがみ、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない。」として、その推進を国や地方公共団体に求めています。
 貴委員会におかれては、いちはやく全小中学校の学校図書館に専任の職員を配置され、子どもたちの読書活動の環境整備に努められています。
 子どもたちの「自主的な読書活動」を尊重する観点から本件措置を再考され、読書活動の環境整備をよりいっそう推進されますよう、お願い申し上げます。

以上

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