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2013年7月29日 (月)

HDD会社の統合結果

HDD会社の統合が済んでからの決算が公表されたので考えることにする。


Seagate が Sumsung のHDD部門の事業譲渡 (2011年4月) を、WD がHitachiGST (日立製作所のHDD部門) の事業譲渡 (2012年3月) が済んだ後の1年の決算が出た。HDD業界はM&Aが多い業種であり、過去に多くの事例がある。小さな会社が乱立していた時代を過ぎて、会社が整理された1990年代後半以降のM&Aの例をまとめた。事業譲渡額と、譲渡される会社の直前の年度の売上額を含めて下に示す。

■ 過去のHDD会社のM&Aと吸収企業の売上高 (単位:百万米ドル)
   年   譲渡対象  買収企業 譲渡金額  売上額        備考
  1996  Conner    Seagate    1,100    2,790     企業全体を吸収
  2001  Quantum   Maxtor    2,300    3,312     HDD部門を事業譲渡
  2003  IBM      Hitachi    2,050    4,000     HDD部門を事業譲渡
  2006  Maxtor    Seagate    1,900    3,890     企業全体を吸収
  2009  Fujitsu    Toshiba     350    1,450     HDD部門。ヘッド・メディアは別企業へ
  2011  Samsung   Seagate    1,375    3,700    HDD部門を事業譲渡
  2012  Hitachi    WD      4,250    6,003     譲渡は現金とWD株式(750M相当)による
 ※ Fujitsuはヘッド(TDK)・メディア(昭和電工)に分割譲渡した。

譲渡金額は事業構成 (ヘッド、メディアの内製化率など) の違いがあるので単純比較は難しいが、売上金額の半分程度になっている。譲渡される会社がHDD専業メーカであれば決算報告の内容で推定することが可能であるが、譲渡対象の Conner と Maxtor の2社のみが専業であり、比較するデータが不足している。決算情報をウェブ上で容易に入手可能となったのは2000年以降であり、それ以前は情報が限られる。Conner の情報は特に乏しかったことをここに記す。
1980年代には数多くのHDD会社があったが、1990年には20社程度の会社に淘汰された。この期間になくなった会社はM&Aではなく、倒産ないしは撤退によるものであった。M&Aを行う目的は、自社の事業に投資するより早く売上と利益が上げられることにある。投資した後に売上は増えなければ、市場でのポジションも上がらなければ様々な交渉で優位に立てない。上記の企業のM&A前後の市場占有率がどのようになったかを確認した。M&Aが発表される前の会計年度と、事業譲渡が行われた翌年の会計年度での市場占有率をまとめた。結果を下に示す。

■ HDD企業合併前後の市場占有率の変化
   年   買収企業  譲渡対象   譲渡前(%)   譲渡後(%)   比較年
  1996  Seagate    Conner     34 (18+16)    23      1995 , 1997
  2001  Maxtor    Quantum    28 (13+15)    24      2000 , 2002
  2003  Hitachi    IBM       17 (4+13)     15      2002 , 2004
  2006  Seagate   Maxtor     43 (29+14)    35      2005 , 2007
  2009  Toshiba    Fujitsu     15 (8+7)      11      2008 , 2010
  2011  Seagate   Samsung    40 (30+10)    -      2010 ,  -
  2012  WD      Hitachi      47 (31+16)    -      2010 ,  -

統合後の市場占有率は低下する傾向が認められる。これはHDDメーカの顧客であるPCメーカ (HDDの半分はPCメーカへの納入と考えて良い) が複数の会社からの購入を行うからである。統合されて一社になると別の会社への発注量を増やしバランスを取ることが行われていると推定される。しかし、2011年のSeagate と Samsung の統合以降は、HDD会社が4社 (WDと日立の統合で3社) と供給先が限られることから変化しない可能性がある。直近の四半期で Seagate の市場占有率は41%、WDは44%と推定される。HDDがノートPCの不振による影響を大きく受けている中での比較で確からしさが不足することが心配されるが、両社とも大きく数字を落としていないことは確かである。これは三番目メーカである東芝の供給能力に限りがあるので調整代に乏しいという購買部門からすれば実務的な制限に依っている。
資金を投じて時間を稼ぐことがM&Aであるとすれば、投じた資金は速やかに現金化しなければならない。キャッシュフローに注目して、営業キャッシュフローの増加額が買収金額と釣り合っているかで買収の成否を判断することを試みる。買収する会社が専業メーカでないとキャッシュフローの情報が得られないので、日立製作所(IBM)と東芝(富士通)の例を除いた過去の3例について検証した。HDDのモデルライフを長めに3年と考えることにして、M&A前のモデルを3年間で資金回収できれば成功とすることにする。回収しきれなくてもM&Aの対象にその後も活用できる資産があれば評価は変わるが、複雑な事情は公開情報のみでは判断が付かないので、資金回収のみで判断することにした。結果を下に示す。

■ 企業合併前後の営業Cash flow (前後各3年間の平均)  [単位:百万ドル]
   年  買収企業  買収前  買収後  前後差x 3年 買収金   吸収企業
  1996  Seagate    553    967     1,242     1,100    Conner
  2001  Maxtor    178     50     -384      2,300    Quantum
  2006  Seagate    982   1,646     1,992     1,900    Maxtor

Seagateの2例のM&Aは成功であったと判定して良い。一方、MaxtorのQuantumのM&Aは失敗であった。実際、Maxtorは営業利益が赤字の年度が続き、2006年にSeagateに実質吸収されるに至っている。

キャッシュフローによるM&Aの成否判定は上記の例では妥当であるように見えるので、近年の二例のM&Aについて同様の検証を行うことにする。
少し長くなったので、最近の経営状況やHDD業界の事情を含めて次回検討することとする。


慣れない読書感想文を書いていたのは、調べが遅れていたからでは決してない。

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