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2013年7月30日 (火)

Seagate と WD の M&A結果について

昨日に続きHDD業界のM&Aに関する検証を行う。

M&Aの成否を判断するのに、営業キャッシュフロー(C/F)の増加額と買収額が釣り合っているか否かによるのは過去の例について妥当であった。そこで、WDとSeagateのM&Aについて速報レベルとなるが検証することにする。
まず、WDとSeagateの売上高・営業利益とC/Fの推移をまとめた。単位は百万米ドルである。結果を下に示す。

■ WDの売上高・営業利益とC/Fの推移 (単位:百万ドル)
[ Million US$ ]             <<<<<<        Cash Flow        >>>>>>
  年度   売上  営業利益    営業   投資   財務    増加額  期末残高
  2009   7,453     519      1,305   -551    -64     690   1,794
  2010   9,850   1,525      1,942   -986    -16     940   2,734
  2011   9,526     781     1,655   -793   -106     756   3,490
  2012  12,478   1,771     3,067   -4,167    819    -282   3,208
  2013  15,351   1,947     3,119   -970  -1,048    1,101   4,309

■ Seagateの売上高・営業利益とC/Fの推移 (単位:百万ドル)
[ Million US$ ]             <<<<<<        Cash Flow        >>>>>>
  年度   売上  営業利益    営業   投資    財務    増加額  期末残高
  2009   9,806  -2,635      823   -618     232      437   1,427
  2010  11,396   1,740     1,932   -752   -344      836   2,263
  2011  10,970    806     1,264   -981    131     414    2,677
  2012  14,939   3,108     3,262  -1,114  -3,118    -970   1,707
  2013  14,351   2,091     3,047   -825  -2,222       1   1,708

両社とも6月末の会計年度を採用している。SeagateがSamsungのHDD部門を、WDが日立GSTをM&Aしたのは、2012年の会計年度になる。買収金額を下に再度示す。

■ SeagateとWDのM&Aと吸収企業の売上高 (単位:百万米ドル)
   年   譲渡対象  買収企業 譲渡金額  売上額        備考
  2012  Hitachi    WD      4,250    6,003     譲渡は現金とWD株式(750M相当)による
  2011  Samsung   Seagate    1,375    3,700    HDD部門を事業譲渡


WDは3,500M$を現金で支払い、750M$を株式で支払っている。よって投資C/Fに-3,500が入り、財務キC/Fに750が入ることになる。WDの投資C/Fは、500から1,000の間で推移しているから日立製作所に支払う金額が2012年のみ特に加わったことが見て取れる。Seagateについても同様で、Samsungへの支払いの1,375が2012年の投資C/Fに影響している。
この両社について、営業C/Fの譲渡前後の比較を行う。譲渡前は2009-2011年の平均を採用した。譲渡後は速報レベルとなるが2013年の単年度で行う。結果を下に示す。

■ SeagateとWDのM&Aと吸収企業の売上高 (単位:百万米ドル)
   年   買収企業 譲渡金額  営業C/F譲渡前  譲渡後(2013)   差異
  2012  WD      4,250      1,634         3,119      +1,485
  2011  Seagate    1,375     1,340         3,047      +1,707

Seagateについては、単年度でSamsungへ支払った金額分を超える営業C/Fの増加が確認された。WDについても、Seagateほどではないが、支払った額の1/3を超える営業C/Fの増加となった。2014年以降も同じ水準で推移すればM&Aは成功であったということになる。
しかし、それほど簡単な話ではないことが分かっている。2011年11月頃から深刻になったタイの洪水被害はHDD業界に大きな影響を及ぼした。WDとSeagateの四半期決算の推移を下に示す。

■ WDの四半期毎のHDD出荷台数と売上・利益と平均HDD単価
 Quarter   HDD(Kpcs)  売上(M$) 営業利益 HDD出荷単価(US$)
2010 CQ1  51,097   2,641    224      51.7
    CQ2  49,741   2,382    242      47.9
    CQ3  51,075   2,396    226      46.9
    CQ4  49,500   2,475    235      50.0
2011 CQ1  49,832   2,252    252      45.2
    CQ2  53,809   2,403    297      44.7
    CQ3  57,827   2,694    282      46.6
    CQ4  28,472   1,995    486      70.1
2012 CQ1  44,227   3,035    435      68.6
    CQ2  71,038   4,754    664      66.9
    CQ3  62,480   4,035    601      64.6
    CQ4  59,241   3,824    581      64.5
2013 CQ1  60,175   3,764    644      62.6
    CQ2  59,896   3,728    590      62.2

■ Seagateの四半期毎のHDD出荷台数と売上・利益と平均HDD単価
 Quarter   HDD(Kpcs)  売上(M$) 営業利益 HDD出荷単価(US$)
2010 CQ1  50,240   3,049    560      60.7
    CQ2  46,770   2,656    381      56.8
    CQ3  49,220   2,697    231      54.8
    CQ4  48,920   2,719    206      55.6
2011 CQ1  48,740   2,695    179      55.3
    CQ2  52,250   2,859    190      54.7
    CQ3  50,750   2,811    236      55.4
    CQ4  46,910   3,195    605      68.1
2012 CQ1  60,700   4,450   1,210      73.3
    CQ2  65,900   4,482   1,057      68.0
    CQ3  57,600   3,732    624      64.8
    CQ4  58,000   3,668    555      63.2
2013 CQ1  56,000   3,526    465      63.0
    CQ2  53,900   3,425    448      63.5

2011年CQ4 (10-12月)においてWDの売上が大きく落ち込んでいるのが分かる。WDの主力工場であるタイ工場が洪水で浸水し操業停止となった。この四半期の2/3は停止していたので、生産力の劣るマレーシア工場 (全体の三割程度) のみでの対応となった。タイの洪水でHDD工場が操業停止となったのはWDの他に東芝がある。しかし、HDDのスピンドルモータの八割を占めるという日本電産のタイ工場が停止して、他のHDDメーカに影響が出た。日本電産はタイ以外に中国にも工場を持つが、同程度の能力であることから部品供給に大きな影響を及ぼした。これはSeagate の同期売上が落ちていることで確認できる。
このHDDの生産への影響は2012年CQ1(1-3月)まで残った。この影響は大きなHDD不足として現れた。そしてHDD価格は上昇した。二社のHDD出荷単価(売上金額を出荷台数で割った金額で算出)が急上昇していることで確認できる。出荷単価が15%上がったことは経営に大きな影響を及ぼし、2012年CQ2はこれまでにない売上を達成した。C/Fの議論で、財務C/Fが大幅なマイナスになる、即ち、借金の返済に相当する行為を集中的に行えたのもこれが理由である。

その後、同時期にタブレットPCが広く使われるようになりPCの需要が緩んだ。その結果HDDは供給過剰状態になっている。タブレットPCと競合するノートPCに於いて顕著である。供給会社が三社の状態では値下げ競争に走ることもなく経営を著しく難しくすることには至っていないようだが、今後数字に表れてくることと予想される。ピークの2012年CQ2以降売上が下がってきていることで確認できる。
大容量の不揮発性メモリはHDDを置き換えるものがなく、動画保存用に市場が広がるほか、サーバ用にはHDD容量・台数が増加することが確実視される。しかし、サーバ用のHDDは全体の5%程度の台数に過ぎず、この台数が伸びても減った売上をカバーしきれないのが会社としては痛い。
WD、SeagateのM&Aの結果を確認してきたが、HDD事業そのものの持っているリスクが最大の因子であった。M&Aの評価とは異なるテーマとなるが、専業メーカでその製品のライフが尽きる可能性の検討は難し過ぎる課題だろう。


いつになく数字が多いのは、数字の無いものをだらだら書いた反動ということでもない。

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