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2013年6月12日 (水)

プロ野球統一球問題

プロ野球の加藤良三コミッショナーは6月12日、東京都内で記者会見し、統一球を飛びやすくしながら公表していなかった問題で「事実を隠蔽する意図はなかったが、混乱を招いたことはおわびしたい」と謝罪した。

下田邦夫事務局長が加藤良三コミッショナーを庇うという、古き良き日本の組織運営が垣間見えて楽しかった。おまけに、ボール製造のミズノ社の在庫整理にも配慮するという、浪花節を語ってくれるというおまけまで付いていた。それらの原因というのが、統一球というグローバルスタンダードを意識した話というから、センスが高いか悪趣味かは受け取る人によって違うのだろうが、笑わすつもりはないところが秀逸と言える。統一球の話は以前扱ったので、コミッショナーについて合わせて考える。

一般社団法人である日本野球機構 (NPB) がプロ野球 (セ・リーグとパ・リーグ) を統括している。プロ野球で現在使用されている統一球は、所定の方法で測定された反発係数が0.4134から0.4374であることと規定されている。今回の事件でボールの画像が紹介されているが、そのボールに承認印があることが見て取れる。
NPB側の言い分としては、2011年までに使用されていた統一球は、反発係数の下限である0.4134に近づけた数値で製造されていた。ところが、実際にNPBから公認され公式戦などで使用されていたボールの中には、その値をさらに下回る「飛ばなすぎる」ボールも含まれていた。シーズン中に行われるボールの検査では、複数の球場から選んだボールの平均値が0.408であったという。

いろいろは話を同時にされているので分かり難い。試合に使用されるボールはミズノ社のみが製造、供給している。試合に実際に用いるボールは、審判のみが扱うことが可能となっている。加えて、二ヶ月に一度、指定された日に試合用のボールから2つを審判が任意に選んでNPBに署名入りで郵送する。6球場から集められた12個のボールは、野球規則委員または審判員が立ち会いのもと、重量、周囲の測定、日本車輌検査協会の反発係数測定器での測定を行うことになっている。NPBが後半部分で主張している下限以下の物があったというのは、この検査結果であろうと思われる。
日本車輌検査協会の反発係数測定器というのは、試験ボールを鉄板にぶつけ、鉄板に当たる前後の速さの比で反発係数を算出しているという。鉄板にぶつける速さは、秒速75m(時速270km)というから、破壊検査だと考えて良いだろう。試合ではファールになったボールを神経質に見えるほど交換要求しているのだから、鉄板に当たったボールなど試合に使えることもあるまい。なお、プロ野球の試合で使用されるボールの数は、1ゲームあたり100球前後だと言われている。
2011年に反発係数の規格を外れた物が多数あったという証言がある。反発係数の公認野球規則で謳っている範囲は 0.41 - 0.44 である。NPBの使用球の仕様は狭くなっていて0.4134 - 0.4374となっている。幅が 0.03 から 0.024に下がって、中心(0.425 → 0.4254) は0.0004上がっている。

統計的な見方をしてみる。今回のボールを大量生産されている工業製品であると考える。反発係数の標準偏差(σ)が0.01だとすると、規格の中心値に狙い通りに仕上がっていたとしても、現行の仕様なら1/4は規格外になる。上側の外れもあることからすると、ここまでバラツキは大きくなさそうである。σを0.005だとする。これだと規格を外れるのは1/100程度であると見積もられる。ミズノにはこの程度の工程能力 (品質を維持する能力) があるだろうと推定される。この会社にNPBが規格の幅を半分にする要求を出したとする。下限側に寄せて 0.4134 - 0.4254 を反発係数にすると指示したと想像しよう。これだと下限を三割が下回ると予想される。
反発係数の測定は、75m/secで衝突したとすると、31.005 - 32.805m/secで跳ね返ることになる。σの0.005は 0.375m/secに相当する。縫い目部分が鉄板に衝突した場合と、革の平坦な部分が衝突した場合で跳ね返りに影響しないかと心配するが、なんとかなるような工夫があるのか、影響しないのかなのだろう。

2011年に規格外品があったという証言からすると、ミズノのボールの反発係数に関する工程能力は上記程度でそれほど高くない。規格の下側を狙うように指示されても、下側にあって全数が合格できるような管理は期待できないのは、ミズノの担当者は理解していたと思われる。といことは、NPBから出来ない相談を持ち掛けられても、はいそうですうかとは答えないだろう。2011年のシーズンが始まる前後で、NPBとミズノは話し合ってある合意を得たと想像しても仕方ない状況のようだ。供給会社を一社に絞った関係で、ミズノの出来ませんとは言い難い。NPB側も他社に頼むのは出来ない相談であるから、互いに歩み寄らなければならない事情を抱えている。
今回の公表で問題とされているのは、勝手にボールの仕様を変更したことであるが、むしろ問題とすべきは2011年に規格外の製品を放置したことの方が問題である。規格内にすることを公表しなかったのは加藤のいうところの不祥事でないと言えても、規格外品のを使用放置したのは不祥事である。これが発生した不利益に対し、NPB関係者は回復する責任を負う。担当者のしたことであっても組織の問題であるから加藤の責任というのが、組織運営の正しい在り方だろう。公表の遅れなら逃げきれても、不合格品の採用はNPBとミズノがネンゴロになって決めたことと疑われて仕方ないから、逃げる術がない。


この愚かなコミッショナーの前は誰がやっていたかと調べてみた。名誉職でしかなかった時代が長いが、7代の下田から米国のコミッショナーに近付ける動きが見える。しかし、愚かなことに、10代に川島は前職がセ・リーグ会長という興業側の調整役出身という名誉職より性質の悪い者を選んでしまった。有力チームの経営者のゴリ押しに負けたのだろうが、こんな団体の責任者など成り手がないだろう。米国では野球チームのオーナーが名誉であるが、日本では興行主の元締めに過ぎない。名誉の集団に、全体の利益が乗っかるのは理想的だが、欲得で動く利益手段の上には全体の利益は据わりが悪かろう。
下に近年のコミッショナーと在任期間、前職を示す。

第 6代 金子鋭  1976年-1979年 富士銀行相談役
第 7代 下田武三 1979年-1985年 駐米大使 最高裁判所判事
第 8代 竹内壽平 1985年-1988年 検事総長
第 9代 吉國一郎 1989年-1998年 内閣法制局長官
第10代 川島廣守 1998年-2004年 警察庁警備局長 内閣官房副長官 セ・リーグ会長
第11代 根來泰周 2004年-2008年 東京高等検察庁検事長 公正取引委員会委員長
第12代 加藤良三 2008年- 現職  駐米大使

信じられないことに、川島廣守は野球殿堂入りしているが、功績があると思える下田武三は野球殿堂入りしていない。野球殿堂が野球への貢献より、有力経営者との縁故で決定されていることが見える。このような縁故で動く体質が日本の悪さで、米国はこの部分では優れていると感じる。
コミッショナーの悪口を言っても仕方ないのでここまでにする。
なんとも味の悪い話である。

反発係数について追記すると、反発係数が0.41から0.42なって他の条件が変わらないなら、初速が 0.42/0.41 = 1.024 向上する。ホームランは100m飛ぶとすれば、この領域まで飛ぶ打球が2.4%遠くまで飛ぶことが予想される。空気抵抗は速度の二乗で効くだろうが、この程度の差なら単純に比で見積もってそれほど外れはしないだろう。


反発係数を変えられたことで不利益を受けたと、インセンティブ契約のある投手はNPB相手に損害賠償を求める訴訟を起せば良い。

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