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2013年2月 7日 (木)

インサイダー取引:日興証券事件 横浜地裁、訴因変更求める

SMBC日興証券(旧日興コーディアル証券)が担当した株式公開買い付け(TOB)を巡るインサイダー取引事件で、横浜地裁(朝山芳史裁判長)は1月31日、検察側に訴因変更(起訴内容の変更)を求めた。起訴状は情報提供したとされる同証券元執行役員を事件の中心に据え、実際に株取引したとする会社役員を「共犯」と位置付けたが、地裁はこの構図に疑問を示した。


先に少し触れたが、この事件が理解できずに悩んでいた。インサイダー取引も知識が不足しているが、それに加えて裁判長が訴因変更を求めるということが理解できない。基本的な事柄から理解しようといろいろと読んでみた。その結果を記すことにする。

事件は、証券会社の執行役員のY (記事では実名) が、公開されていないTOB情報を、紹介した融資の焦げ付きなどで損害を与えたK (記事では実名) に常習的に情報提供していた。Kはその情報に従って、3社の約67,000株を約6,400万円で買い付け、公表直後に売り抜けて約3,600万円の利益を得たとされる。冒頭の裁判は、Kに対するものであり、Yについては別の裁判 (ただし、裁判長は同じ) になっている。そして、Yは公判前整理手続きで起訴内容を否認している。
それほど複雑な構成ではないように思えるから、ここに裁判官が訴因変更を求めることが理解できない。なぜだろうかと考えてみた。インサイダー取引は金融商品取引法によって規定されている。内部の者だけが知り得る情報によって売買をして利益を出すことを禁止している。代表的な例としては、この情報が公表されればこの会社の株式が値上がりするから、公表される前に買っておいて公表後に売り利益を出すというものである。法律は、この利益っを上げる行為に罰則を規定しているが、情報提供についての罰則はない。つまり、情報提供者のYは株式の売買を行っていないから、単独ではYを罰することはできないことになる。YがKと利益的なつながりがあることで、共同正犯にするのがあるように思うが、Kに対する損失補てんは公序良俗に反するから無効となる可能性が高いように思える。つまり、YがKに情報を与えることは、会社の厄介な問題を回避するだけのことで、Yに見返りとしての利益があったとは言い難いということになる。そうすると、YとKに利益的な強い結びつきがあったとは言えないから、Yは無罪になる。となると、Kについても無罪になる可能性が高くなる。Yが正しい情報を与えるとは限らないだろうと言われると、反論が難しい。
執行役員であったYが情報を漏らしてKが利益を上げたことがインサイダー取引となると、証券会社の営業が顧客に、「この会社はTOBが予定されているから値上がりしますよ」とささやくことも同じではないかということになる。執行役員だから入手できる情報なら有罪で、営業担当者程度が知り得る情報は無罪と言うのも少々無理がある。裁判所が未公表事実の情報提供者について共同正犯の成立を認めるということになると、法律の改正を待たずともその適用範囲は相当に広がることになる。情報受領者が正犯となり、情報提供者はその従犯(教唆、ほう助)とすれば、検察側はまず情報受領者を捕まえて、その正犯を確定する手番になる。しかし、情報提供者にも正犯が成立するとなれば、検察は強い札を持ち、情報提供者から網に掛けるという手法がとれるかもしれない。検察に道具を渡すと恣意的な使い方をしそうだと、心配する人もいるだろう。確かにそんな気がする。

冒頭に戻る。訴因変更とは、検察官が公判の途中で、起訴状に記載した事実の範囲内で該当する罪名を変更したり追加したりすることである。裁判所は訴因に対してしか判断できないが、刑事訴訟法は、審理の経過をみて適当と認めたときには検察官に訴因変更を命じられると定められている。今回の事件で、他の訴因に変更すれば明らかに有罪なのに、検察官の主張する訴因のままだと無罪になると判断した場合などに変更を命じるという状況が想定される。しかし、検察官は命令に従わなくても構わないが、わざわざ無罪にするのは検察が取る態度ではないから、何かしらの対応をするだろう。思案のしどころは、どのように変更するかというところなのだろう。
昨年11月に、金融庁が進めているインサイダー取引規制の強化策として、現在の規制では対象となっていない情報提供者に課徴金を科すことや、違反者に対する課徴金額の引き上げを検討していることが公表された。規制強化で不正を抑止し、相次ぐ増資情報の漏洩(ろうえい)で失墜した日本市場の信頼回復につなげたい考えだという。その後の進捗は不明であるが、法律の改正前にどうするかは関心がある。全国的な記事にはなっていなかったが、判決は全国で扱われることだろう。


難しい問題を扱うと調べるのに時間を要する。

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