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2013年2月27日 (水)

求刑超え一審判決破棄

大阪市平野区の自宅で姉(当時46)を刺殺したとして、殺人罪に問われた無職の被告人(42)の控訴審判決が2月26日、大阪高裁であった。松尾昭一裁判長は、発達障害を理由に検察側の求刑(懲役16年)を上回る懲役20年とした一審・大阪地裁の裁判員裁判の判決を破棄し、「犯行の動機に障害が大きく影響しており、責任を軽くする事情ととらえるべきだ」として、懲役14年を言い渡した。  (--朝日新聞より。被告人の名前は伏せた)


注目される裁判であるので思い付くまま記す。

注目された理由は、一審が裁判員裁判であり、検察側の求刑(懲役16年) を上回る懲役20年になったことにある。そして、判決に至った背景に、被告人が発達障害を抱えていて、それ故に再犯の恐れが高いと判断されたことにある。仮定の話で恐縮だが、検察の求刑通りの判決であったのならそれほど注目は集まらなかっただろうと思う。
2012年7月の一審判決は、被告を発達障害の一種のアスペルガー症候群と認定して、「障害に対応できる受け皿が社会になく、再犯の恐れが強い。許される限り長期間、刑務所に収容することが社会秩序の維持につながる」としている。障害に対応できる受け皿が社会にないことを量刑理由にされてしまえば、障害を有する被告人は量刑が重くなるのが当然だという論理であるから、障害者団体から反発があって当然だと思う。受け皿が社会にないことを正当化するなら、犯罪者の差別を正当化することになる。受け皿を作る努力を怠ったことの責任はどこにあるのかという訴訟が起きかねない話になる。
一審の判決にあたって、職業裁判官が適切なリードをしなかったのではないかと疑ってしまう。社会に受け入れ難いという論理は、一般の市民感覚から出るものであって、職業裁判官は高度に発達したバランス感覚により、過去の類似した事例を参考にした他の法律家が見て妥当と思われる量刑を選択するはずである。冤罪の主張や事実関係を争う裁判でなく、量刑のみに関心が集まった場合に職業裁判官の能力が最大発揮することろだろう。
二審判決が、一審の求刑16年に対して14年であるから、求刑の七掛けとか八掛けとか言われる量刑相場からすれば重い判決になっている。近年は量刑相場から外れた判決も多くなっていて、今回の一審判決のように求刑より重い判決が下ることも増えているそうだ。職業裁判官が下した判決が求刑に近いことからすると、被告人とその障害の程度は社会に受け入れ難いものであると判断されているようだ。検察が無期懲役の求刑をしなかったのは、障害者が親族を殺害した事件では重すぎると考えたのかもしれない。障害者の犯罪は、検察にとっての方がセンシティブかもしれない。
二審判決で、被告は生まれながらのアスペルガー障害を周囲に全く気づかれず、適切な支援を受けられないまま、約30年も引きこもりの生活を送ってきた。強迫障害や恐怖症性不安障害などの二次的精神症状も現れていた。被告が経済的に依存し、唯一言葉を交わすことができた母も入院して働けなくなり、犯行当時、自殺を考えるまで追い詰められた状況にあった。このように犯行の経緯や動機の形成過程には、被告のみを責めることができないアスペルガー症候群特有の障害が介在しており、量刑判断にあたっての責任評価の上で考慮されなければならない。としていることからすると、検察の判断は妥当な落としどころであったと思われる。むしろ、注目されて欲しくないタイプの裁判であったかもしれない。如何なる判決であったにしても、非難される裁判である。例えば判断能力がないとされて無罪は許されないし、10年以下も検察が手緩いと批判を受けるのは必定だろう。逆に、無期懲役を求刑したら、それだけで人権団体から非難を浴びることになるだろう。批判の矛先が裁判所に向いてくれたのは検察からすれば、助かったと言えるのではないか。

厳罰化傾向が正しいかどうかは意見の分かれるところだろうが、市民感覚を裁判に入れるというのであれば厳罰化することは避けられないだろう。再犯の恐れを理由に量刑を重くするとしたら、覚せい剤取締法違反の被告人で再犯なら、懲役10年で決まりになる。裁判中も、また使うという被告人もあるというから、どうしようもないのであるが。
裁判員裁判を適用する事件を重いものとしているが、重い事件であればあるほど社会から排除したくなるのが一般の社会で暮らす人の感覚だろう。機械的に量刑を当てはめる方法も如何かと思うのだが、社会通念上と称する免罪符を用いて厳罰化を達成するのは間違っていると思う。手間が掛っても、人の自由や財産を制限する罰には、人手を掛けるのが正しい行為だと信じるからである。


報道は被告人抱える問題に切り込んでいない。人権上の配慮ならここまで報道しなくて良い。どっちつかずは最近の報道の最も大きな問題である。

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